徳島県の山あいだけに伝わる、幻の乳酸発酵茶「阿波晩茶」【第3回】地域に愛される健康茶、そしてこれから

徳島県の山あいだけに伝わる、幻の乳酸発酵茶「阿波晩茶」【第3回】地域に愛される健康茶、そしてこれから

はじめに

徳島県を代表する特産品のひとつ、「阿波晩茶」。上勝町・那賀(なか)町・美波町などの山間地域に伝わる、乳酸菌の力で自然発酵させてつくられる世界でもめずらしいお茶です。その独自の製茶技術により、2021年には「国の重要無形民俗文化財」に指定されました。
もともと自家消費が中心で市場への流通量が少ないうえ、近年は、人口減少や生産者の高齢化により生産量そのものも減少しています。こうした希少性から、阿波晩茶は“幻のお茶”とも呼ばれています。

本連載では阿波晩茶がどのようにつくられ、愛されているのかを紐解くため、つくり手に密着。全3回にわたってお届けします。

最終回となる第3回目は、貴重な食文化として認められた阿波晩茶の魅力と、その魅力を広めるべく奮闘する人たちをご紹介します。

【第3回】
地域に愛される健康茶、そしてこれから

グラスに入った阿波晩茶と木皿に乗った茶葉


生産者に教わる、美味しい淹れ方

約1ヶ月かけてようやく完成する阿波晩茶。
生産者の田渕さんから美味しい淹れ方を教えてもらいました。

田渕直代さんの娘さん
▲田渕直代さんの娘さん。休憩時にはいつも美味しくて冷たい阿波晩茶を用意してくれました。

「やかんでグツグツするまで湯を沸かしたら、火を止めて、茶葉をひとつかみ入れるだけ。5分くらい待てばいつでも飲めるようになっとるんよ」
きれいな黄金色になったら飲み頃です。
朝に一度つくったら、茶葉を変えずにそのまま昼も晩も湯を差しながら飲み続けるのも日常のこと。

冷たい阿波晩茶
▲田渕家でいただいた、冷たい阿波晩茶。

冷やして飲む場合は、茶葉を少し多めに入れて濃い目に出しておけば、氷を入れてもちょうど良く仕上がるそうです。

梅干しが乗った阿波晩茶のお茶漬け
▲阿波晩茶のお茶漬け。梅干しとよく合います!

そんな田渕家でおすすめの楽しみ方があります。
梅干しをのせて阿波晩茶をかけるだけのお茶漬けです。ほのかな酸味がある阿波晩茶と酸っぱい梅干しの相性は抜群! 不思議と冷茶にもぴったりで、食欲が沸かないときにこの一杯を食べれば元気が出そうです。


“その家の味”がある

「ほかの家のお茶はあんまり飲んだことがないけん、うちの味しか知らない」と話す田渕さん。じつは、阿波晩茶には“その家の味”があると言われているのです。

左は上勝町の阿波晩茶、右は那賀町の阿波晩茶。左の晩茶は黄色味が強く、右は薄黄色のお茶。
▲左は上勝町の阿波晩茶、右は那賀町の阿波晩茶。

試しに、那賀町産と上勝町産の阿波晩茶を飲み比べてみました。ほんのり酸味で、飲み慣れた緑茶のようにすっきりと味わえる那賀町産に対して、上勝町産は乳酸菌発酵独特の酸味がより際立ちます。

左が「ヤマチャ」や「在来」などと呼ばれている茶葉。右が「ヤブキタ」の茶葉。右の方が歯の形が大きい。
▲左が「ヤマチャ」や「在来」などと呼ばれている茶葉。右が「ヤブキタ」の茶葉。

阿波晩茶づくりで使われる茶葉には、在来種の「ヤマチャ」、緑茶用として代表的な品種の「ヤブキタ」という2種類あるのですが、特に、隣接する上勝町ではヤマチャの栽培が多く、ここ那賀町では「相生(あいおい)緑茶」というブランドで緑茶の生産が盛んに行われていた歴史があり、ヤブキタとヤマチャが混在していると言われています(2020年3月徳島県「阿波晩茶製造技術」調査報告書)。

吉田敏美さん
▲生産者の吉田敏美さん。「阿波晩茶は後味が残らんけん、なんぼでも飲める」と話します。

相生地区で両方の品種を栽培して阿波晩茶をつくる吉田敏美さんに尋ねると、「ヤマチャの方がまろやかな味、ヤブキタの方が少し渋みがある味になっている気がする」とのこと。
どちらの茶葉を使ってもその独自の工程を辿れば阿波晩茶が出来上がりますが、こうした茶葉の種類も“その家の味”に影響を与えているように思いました。

ヤマチャ
▲吉田家に自生するヤマチャの様子。

また、乳酸菌で発酵させる阿波晩茶は「後(こう)発酵茶」と呼ばれる発酵茶の一種です。味噌や醤油が蔵ごとに異なる味に仕上がるのと同様に、「その土地や場所に棲(す)みつく菌」の違いが“その家の味”を生み出しているのかもしれません。

まだ小さなヤマチャ
▲吉田家の裏山に自然に生えてきたというまだ小さなヤマチャの様子。


阿波晩茶は長生きの秘訣!?

そんな阿波晩茶は、昔から“赤ちゃん茶”と呼ばれています。その理由は、カフェインやタンニンが少ないこと。乳幼児や妊婦でも安心して飲めるお茶なのです。

地元の人に尋ねると、タコを塩で揉んだあと阿波晩茶で茹でて臭みを消したり、花壇に出がらしを撒(ま)いて肥料に使ったり……。阿波晩茶は暮らしの中でさまざまに活用されてきました。

一方で、その“健康茶”としての魅力から、たびたび全国から関心を寄せられてきました。
メディアで紹介されたり、最近では、細胞内の不要物や有害物を分解・除去し、細胞の働きを維持する仕組みである“オートファジー”を活性化する可能性があることが報告され(大阪大学発のベンチャー企業「AutoPhagyGO(オートファジーゴー)」)、注目が集まっています。

阿波晩茶を飲む田渕直代さん
▲阿波晩茶を飲む田渕直代さん。

「ここらへんで100歳まで生きとる人はみんな阿波晩茶飲んでるわ」と笑う田渕直代さん。90歳にもかかわらず元気に阿波晩茶づくりをしている直代さんの姿が何よりの証明です。


“幻のお茶”を未来へつなぐ

「那賀町で暮らすようになって2年。阿波晩茶を飲み続けていたら、快腸になってきたんです。あと、睡眠時間は変わらないのに起きたときの体調の良さを実感しています」と話すのは、「那賀商事」の代表を務める井川さん。お気に入りの楽しみ方は“焼酎の阿波晩茶割り”だそうです。

那賀商事は、那賀町の地方創生を目指して、地域産業の活性化に取り組む地域総合商社。行政と協働しながら、スマート林業の推進や、花の栽培・阿波晩茶・ユズなどの特産品を使った商品開発などを行っています。また、2025年からは那賀町相生緑茶生産施設の指定管理事業者として、緑茶の製茶工場の管理や運営もスタート。今後は、耕作放棄されたゆず畑の再生も計画されています。

左から田村さん、井川さん、瀧さん。
▲左から2026年度地域おこし協力隊の田村さん、那賀商事の井川さん、那賀商事で商品PRを担当する地域おこし協力隊の瀧さん。

そんな地域に根付いた活動を続ける那賀商事は、現在(2026年)、「阿波晩茶づくりがしたい」と4月から地域おこし協力隊になった田村さんとともに、町内にある4軒の阿波晩茶農家の製造を手伝っています。

町内の阿波晩茶製造農家はおよそ30軒(「阿波晩茶製造技術調査委員会アンケート」2019年実施)。高齢化が進むなか、その生産者数は年々減少していると予想されています。そこで、「実際に現場を体験して、課題となっている担い手不足や人手不足の解決のための仕組みづくりを考えていけたら」という思いがあります。

阿波晩茶づくりを手伝う井川さん
▲阿波晩茶づくりを手伝う那賀商事代表の井川さん。

「地元の方から“阿波晩茶の手摘みがこのまちの風景だった、その風景を残して欲しい”と言われたことがあるんです。自分も手摘みの阿波晩茶が美味しいと思うので、このまちの風景を守るためにも、阿波晩茶づくりの文化を残していけるよう、行政にも働きかけながら取り組んでいけたら」と語る井川さん。

「これまで那賀商事では“那賀町の阿波晩茶”としてまとめて販売していましたが、今後は、取り引きしている田渕家や吉田家など、6軒の阿波晩茶農家それぞれの“家の味”を楽しんでいただけるよう、生産者ごとに商品展開をしていきたいと考えています」と、PR担当の瀧さんは、魅力的な計画を教えてくれました。

地元出身の瀧さんは「阿波番茶のお茶漬けを食べたら普通のお茶漬けが食べられない」と話すほど阿波晩茶のある生活が当たり前だったそうです。だからこそ、高齢化と人手不足で継承が難しくなりつつある阿波晩茶への思いはひとしおです。

煮出すときれいな黄金色になる阿波晩茶
▲煮出すときれいな黄金色になる阿波晩茶。

山あいの地域で愛されてきた“幻のお茶”、阿波晩茶。未来へと受け継がれ、これからも多くの人に飲み継がれてほしい、徳島の豊かな食文化です。ちょうど新茶の季節。まずはぜひ一度、その美味しさを味わってみてください。


那賀商事
徳島県那賀郡那賀町和食郷八幡原29番地5
TEL 050-1792-0611
https://nakatown.shop/



徳島県那賀町産 阿波晩茶 リーフ 200g

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徳島県那賀町産 阿波晩茶 リーフ 200g

阿波晩茶は徳島県那賀町相生(あいおい)地区で作られる伝統的な後発酵茶。そのため、「相生晩茶(あいおいばんちゃ)」とも呼ばれています。独特の酸味と旨味に加え、爽やかな香りと後味にすっきりとした清涼感が漂います。