[連載コラム][第3回]
今日は、どこから見てみましょうか。

[連載コラム][第3回] 今日は、どこから見てみましょうか。

ナスを使った料理について語れること。

人生で初めて作った料理を覚えているだろうか?

私はある苦い思い出と共に記憶している。市宇(いちう)という上勝の中でも山奥の集落で私は生まれ育った。対向車など来ないでくれ、と願いながら細く急な坂道を登ると、美しく手入れされた棚田と畑、そしてそこの住民だけが手に入れられる静かな時間が流れる空間が広がっている。私はそこに小学校4年生頃まで暮らしていた。

父は兼業農家で、休日になれば祖母と共に畑や田んぼを世話していた。当時8歳か9歳頃の私はある日、二人とも帰りが遅い日があって、なぜだかその日私は「よーし。何か夕食を作って驚かそう」と考えた。そして家にあったナスを使って料理を始めた。当時は今のようにレシピをすぐにネットで検索したりできなかったから、醤油やら砂糖やら、あるものをとりあえず入れて、煮た。出来上がったナスの煮物は美味しいとは言えなかった。むしろ不味い。しかし、自分で作ったという感覚と記憶だけはしっかりと残った。

夏。毎年産直市にたくさんのナスが並ぶ。「今年もこの季節が来たか」そう思いながら私は、カフェで1、2位を争うほど人気の副菜である「ナスの揚げ浸し」を作る。あの頃の自分の姿を懐かしみながら、今は美味しいと言ってもらえるナス料理を。

ちなみに、うちの店ではお米や野菜はもちろん、味噌も地元の食品グループが作っているものを使う。アンズやびわ、栗、イチジクなどの果物は、カフェの庭で採れる。日替わりランチの内容は基本的にその日の野菜をみて、天気や作り手である自分の気分を含めて決めている。上勝町は小さな町だから、野菜の種類も量も限られている。「この限りの中で、何を作るか」が楽しい。前もってメニューは決まっていない。あるもので料理をする。

「季節の地元素材を使って料理をする」という当たり前を、私は毎日楽しんでいる。下にナスの揚げ浸しのレシピを掲載するので、よければご自宅で作ってみて欲しい。

【ナスの揚げ浸し】

[材料]
ナス 2、3本
〈A〉
白だし 大さじ2
水   200cc
薄口醤油 大さじ1強
みりん  大さじ1強
すりおろしニンニク 1g(お好みで)

1.ナスはへたを切り落とし、縦3か所くらい皮を剥いて乱切りにし、水に浸す。
2.漬けだれを作る。Aの材料を全てタッパーに入れてよく混ぜる。
3.ナスの水けをよくきり、170~180℃の油であげる。ナスが透明になり、少し焦げ色がついたところで網じゃくしでよく油をきってそのまま②の漬けだれへ。冷まして食べる。

※水けをきる際に、布で水けをきるか、ザルに上げて時間をおけばペーパータオルを使わずに済む。


プロフィール
東 輝実 / Cafe polestarオーナー

1988年徳島県上勝町生まれ。関西学院大学総合政策学部在学中よりルーマニアの環境NGOや東京での地域のアンテナショップ企画のインターンを経験。

2012年大学卒業後、上勝町へ戻り仲間とともに「合同会社RDND(アール・デ・ナイデ)」を起業。2013年「五感で上勝町を感じられる場所」をコンセプトに「カフェ・ポールスター」をオープン。その後はカフェを拠点として「上勝的な暮らし」の発掘、情報発信、各種プログラムの開発などに取り組んでいる。2015年、男児を出産し1児の母。