[連載コラム][第11回]
今日は、どこから見てみましょうか。

[連載コラム][第11回] 今日は、どこから見てみましょうか。

「素直に」緊張していますか?

 今年も春が、やってきた。厳しい寒さの冬が終わって気温もグンと上がり、山のあちこちが、ピンクや黄色など色鮮やかに色づく。身の回りでは卒業や入学・入社など、様々な環境の変化が訪れる。何かが終わったり、始まったりするこの季節、毎年私は少し緊張するのだが、皆さんはどうだろうか?


 今年は息子が小学生になったので、私はいつも以上に緊張していた。年度末の忙しさと、入学に向けた準備が重なったこともあり、何か忘れていないかな? と何度も入学書類を見直し、抜けていることはないかと心配してソワソワとする私。そんな母をよそに、息子は新しく通い始めた学童保育にもすぐに慣れ、私はその順応力を羨ましく思っていた。


 入学式の次の日。初めて登校する息子に朝、「今の気持ちはワクワク? ドキドキ? ちょっぴり不安?」と聞くと、「んー。楽しみかな」と彼は答えた。そうか、変化を楽しめているんだな、たくましいな、と思っていたら、しばらくして、彼は私にそっと抱きついてきた。顔を見られないよう隠そうとしていたが、目に薄く涙を滲ませているのが見えて、彼の中で緊張や不安など、いろんな感情が入り混じっていることが伝わってきた。

 そんな彼の素直な反応を見た時、緊張というのは、新しいことへの期待や興奮と、慣れ親しんだものを失うような不安や、ぎこちなさの中間の感情だと改めて感じた。文字で書くと当たり前のように感じるが、どうやらいつの間にか、私が抱く緊張感には、変化への恐れが大きくなっていたように思う。人の素直さに触れると、凝り固まっていたものが溶けるものだ。


 だから、なのだろうか。春に迎える自分自身の誕生日も、いつからか、楽しむものではなくなっていた。お祝いされるのも、なぜだか申し訳なく感じるようになって、SNSなどでも公開しないようにした。単なる一日に過ぎない、という気持ちを強くして「イレギュラー」という、波の大きさを小さくしようとしていた。

 そんな私に「ちゃんと、楽しむこと」を教えてくれたのは、息子だけではなく、以前にもこのコラムで紹介した、リンダとカナの二人だった。特にリンダは、誕生日やその他のイベントを大事にしている。私が祝われるのが苦手だという気持ちを尊重しつつも、それでもなお、特別なんだよと教えてくれる。

リンダとカナが自宅で用意してくれた誕生日会。お腹いっぱい!

 今年の私の誕生日には、プレゼントに花と焼菓子を用意し、彼女たちの家でささやかな晩御飯会を開いてくれた。偶然私と誕生日が同じだった、上勝に現在滞在中のインターン生のナツキちゃんと、上勝町に何度も大学院のリサーチで訪れている、これまた4月に誕生日を迎えたシンシアさんとの合同誕生日会となった。晩御飯を囲み、1時間程度の短いながらも楽しい時間を共に過ごし、「おやすみ」と「ありがとう」を言って家路についた。

私と同じ誕生日のナツキちゃんと、4月生まれのシンシアさん。リンダとカナ、準備をありがとう。

 日々、変化をつけず、粛々と続けていくことはもちろん大切だ。でも、素直に緊張することを忘れると、心の「張り」を無くしたり、大事なことに気付きにくくなるかもしれない。

 変化が起こりやすいこの季節。素直に、緊張してみるのも、良いかもしれません。

 

プロフィール
東 輝実 / Cafe polestarオーナー

1988年徳島県上勝町生まれ。関西学院大学総合政策学部在学中よりルーマニアの環境NGOや東京での地域のアンテナショップ企画のインターンを経験。

2012年大学卒業後、上勝町へ戻り仲間とともに「合同会社RDND(アール・デ・ナイデ)」を起業。2013年「五感で上勝町を感じられる場所」をコンセプトに「カフェ・ポールスター」をオープン。その後はカフェを拠点として「上勝的な暮らし」の発掘、情報発信、各種プログラムの開発などに取り組んでいる。2015年、男児を出産し1児の母。