[連載コラム][第12回]
今日は、どこから見てみましょうか。

[連載コラム][第12回] 今日は、どこから見てみましょうか。

きっかけをくれる、アートの力。

 毎年GWが目前に迫ると、ソワソワが止まらない。カフェを始めてから、GWやお盆といった大型連休前になると、必ずこの緊張がやってくる。お客様を待たせないようメニューを考え、人員を確保し、食材を仕入れ、仕込みをする。不足がないか、常に不安を抱えながらの準備作業。そうして迎えた今年のGWも、ありがたいことに多くのお客様にご来店いただいた。10日間に及ぶ連続する営業の間はまさに「戦闘モード」。緊張と不安、興奮が入り混じる時間だった。


 加えて今年のGWは、いつもと違った緊張感も抱いていた。GWの初めに出張することになったのだ。「田中紗樹さんが来るから、カフェをやってほしい」と連絡をもらったのが3月下旬。当店を設計した設計士の一人、高橋利明さんからの依頼だった。彼は設計士として仕事をする傍ら、徳島県美馬市で「うだつ上がる」という複合施設を運営している。その場所がオープンから2周年を迎えることもあって、田中紗樹さんという絵描きさんによる公開滞在制作も企画していた。


 ちなみに、当店に飾っている絵は田中さんのもの。高橋さんから紹介を受けて、当店に飾る絵を、上勝町の四季のイメージを伝えて描いてもらった。出来上がった4枚の絵は、季節ごとにカフェの壁に掛け替えている。6年前には、即興で絵を描き上げていく「ライブペインティング」を当店で開催した。そういった経緯があり、私たち3人それぞれには、場を作る人、作品を作る人、食べ物を作る人の役割と繋がりがなんとなくあって、久しぶりに集合しようかと、出張カフェをする流れとなったのだ。

田中紗樹さんによる制作風景   写真提供:高橋利明

 4/30・5/1の二日間限定のイベント。田中さんは阿波市にあるアワガミファクトリーさんから提供してもらった、大きさにして高さ3m、幅1.5mの大きな紙に次々と線を描き入れていく。その制作風景を横目でみつつ、カフェを担当する私たちは、お客様にドリンクやケーキを提供する。その空間は、適度に引き締まる空気と高揚感に包まれていた。新しいものが目の前でできていく新鮮さと、アートに触れることで一時的に非日常へとトリップできる感覚。私の中の戦闘モードが、少し緩んだようだった。


 GWが開けてから、私は休みをとり、家族と共に香川県の猪熊弦一郎美術館と高松市美術館を訪れた。猪熊弦一郎美術館では「美しさとは何か」という、とても壮大で、かつ魅力的なタイトルの企画展が開催されていたし、高松市美術館では人気絵本ユニット「tupera tupera(ツペラ ツペラ)」の展示会が開催されていた。美術館特有の空気感に、背筋が伸びると同時に、日常の中に美しさや、面白さを見出そうとする作者独自の世界観に触れると、なぜか肩の力が抜けた。

高松市美術館で開催中の「tupera tuperaのかおてん」

 アートというものは、(そんな大きなテーマを語れる者ではないと自覚しながらも)自分の日常を必死に生きようとする時、時折狭くなってしまう視点・視野を広げてくれたり、違う思考の領域に一時的に連れ出してくれる「きっかけ」だと感じている。私は美術館に行くことは好きだけれど、詳しい知識は大して持ち合わせていない。ただそこに、きっかけを求めに行っているのだと思う。


 「考えるな、感じろ(Don’t think, Feel)」と、いう名言があるように(使い方、合っているのかな?)よければ皆さんもぜひ、アートに触れてみてほしい。方法はいろいろあると思うが、「tupera tuperaのかおてん.」(~5月29日まで!)は大人も子どもも楽しめるのでおすすめ。

私たちが作ったかお。天井のミラー越しに確認しながら好きなパーツで思い思いの顔が作れる。

プロフィール
東 輝実 / Cafe polestarオーナー

1988年徳島県上勝町生まれ。関西学院大学総合政策学部在学中よりルーマニアの環境NGOや東京での地域のアンテナショップ企画のインターンを経験。

2012年大学卒業後、上勝町へ戻り仲間とともに「合同会社RDND(アール・デ・ナイデ)」を起業。2013年「五感で上勝町を感じられる場所」をコンセプトに「カフェ・ポールスター」をオープン。その後はカフェを拠点として「上勝的な暮らし」の発掘、情報発信、各種プログラムの開発などに取り組んでいる。2015年、男児を出産し1児の母。