[連載コラム][第5回]
今日は、どこから見てみましょうか。

[連載コラム][第5回] 今日は、どこから見てみましょうか。

3年経っても慣れない、当たり前を口にする日が今年もやってきた。

3年前から10月は少し特別になった。

皆さんは「Thanksgiving Day」というイベントをご存知だろうか?アメリカとカナダの祝日のひとつで、日本語では「収穫祭」や「感謝祭」と訳される。日本にもこの時期各地で秋祭りが行われるが、海外の場合は神様に対して豊作の感謝を示すだけでなく、寒さが厳しくなる前にたくさん収穫できた喜びを皆と分かち合うものである。アメリカでは11月の第4木曜日、カナダでは10月の第2月曜日と決まっている。ハロウィンと違ってあまり日本人には馴染みのないこの習慣に戸惑いつつも、今年で3度目のこの日を迎えた。

今年は何十年ぶりに稲刈りを手伝わせてもらった。

Thanksgiving Dayはカナダ人のリンダと共に生活を始めた2019年から我が家で恒例行事となった。アメリカ人が企画した「作家になるためのツアーin上勝」というのがあって、それには各国から15名ほどの参加者が集まったのだが、そのうちの一人がリンダだった。滞在中に上勝を気に入り、そのまま残ることを決めた彼女。そのダイナミックさに圧倒されつつ、新しいことにチャレンジしたいと思っていた私は彼女に自宅の一室を貸し出し、うちの家族と共同生活をすることになった。今では一緒に仕事をするパートナーであり、プライベートな相談もする仲だ。そんな彼女と生活を始めたことによって、時間の使い方や心身の健康、豊かさについて多くを学んだが、中でもThanksgivingは独特な意味を感じるイベントだ。

左がカナ、右がリンダ

Thanksgivingのメインイベントは夕食である。家族や友人が集まり共に祝う。この日限定の食事というのがあって、今年もリンダは張り切って準備をしていた。さらに今年はリンダと同じくカナダ出身のカナもいる。カナは昨年末に上勝を訪れてから(上勝とカナダは相性がいいのだろうか)。今では私たちの大事な仲間の一人である。そんな二人のカナダ人がせっせと準備をした今年のThanksgivingはよりパワーアップしそうだなと思っていたが案の定、いつもに増して料理は豪華だった。「Duckを買ってきたの!」と前日に丸ごと一羽の鴨がきた。本当は七面鳥なんだけどね、と言いながら、鴨一羽どうやって料理するのだろうと、私は内心ドキドキだった。他にもグレイビーソースやマッシュポテト、パンプキンパイなどが並ぶ。食というのは他国の文化を理解するために有効な方法の一つだ。普段とは違ったテイストを味わいながら、毎年当たり前のようにこの日祝っている人たちのことを想う。

Thanksgiving Dinner

うちのThanksgivingではリンダが提案してくれたもうひとつ大事な習慣がある。その場にいる人が一人ずつ感謝の気持ちを言葉にして伝える。初めての時は恥ずかしくて「なんだこれは」と苦笑いだったが、彼女たちが大事にしているものを私も大事にしたい。

「いつもありがとう」。

3年経っても慣れない、当たり前を口にする日。共に過ごせることを嬉しく思った。


プロフィール
東 輝実 / Cafe polestarオーナー

1988年徳島県上勝町生まれ。関西学院大学総合政策学部在学中よりルーマニアの環境NGOや東京での地域のアンテナショップ企画のインターンを経験。

2012年大学卒業後、上勝町へ戻り仲間とともに「合同会社RDND(アール・デ・ナイデ)」を起業。2013年「五感で上勝町を感じられる場所」をコンセプトに「カフェ・ポールスター」をオープン。その後はカフェを拠点として「上勝的な暮らし」の発掘、情報発信、各種プログラムの開発などに取り組んでいる。2015年、男児を出産し1児の母。