[連載エッセイ][第1回]
アースシップとその周辺

[連載エッセイ][第1回] アースシップとその周辺

新しく連載が始まります。

書き手は美馬市の標高600メートルほどの山合いでゲストハウスを営む清水智子さん。2019年8月に日本で初めてオフグリッドハウス(公共のインフラを使用しない)、アースシップ<Earthship>を完成させました。ユニークな形をしたその家は、太陽光や雨水といった自然エネルギーによる暮らしを実現。大きな空とはるか遠くに連なる山々を目前に、自然や生き物たちと共生するかのように静かに佇んでいます。そんなアースシップでの暮らし&できごとを季節ごとに綴っていただきます。お楽しみに!


第1回 雨のこと

この読み物を担当する方から書きませんか?とお話をいただいたのは1、2か月前の話で、アースシップ周辺の日々のことや山の季節の移り変わりなどを中心にとのことだった。


この数年の間で体験したことや感じたことは膨大にあるのだけれど、それをどう表現したら良いのかピッタリくる方法が見つからなくていつも心の端に引っかかっていたような気がするから、この話をいただいたときに、ある意味閉まっていた蛇口の元栓を緩めてもらったようなそんな気がした。


でも、一体、何を書こうか。
一回目だし、いろんな人が見るだろうし。
ここ1か月そんなことを考えながら書き始めては、筆が止まるを繰り返していた。
もとい、パソコンだから打っては指が止まる、が本当は正しい。


それで今の季節は新緑のシーズンだから、ほとんど蛍光グリーンと思えるような新芽や、紫だけじゃなくクリーム色や黄色の藤の花があちこちに現れる山の様子を書いてみようなどと思っていたのに、外はなんともどっちつかずの天候で、今朝から雨が降って霧も出ている。

よし、予定変更。
どうせだからこの雨のことを書こう。
「アースシップ」というこの建物のことも紹介できるし。


冒頭で何も説明していなかったけれど、私が住むこの建物は自然エネルギーで賄う家で、電気はソーラーパネルで発電し車のバッテリーに溜めてから電力として使い、水は雨水を貯水タンクに溜めてから入念にろ過して使う。

ここに住みながらゲストハウスとして運営していて、言うなれば、“自然エネルギー体験のできる民宿”という感じが近いかもしれない。


だから雨が降らなければ節水しなければいけないし、その反対に、太陽が照らなければ電気を節電する。そんな家なので、今朝から降っている雨は実はけっこう嬉しい雨だ。霧が出なかったらもっと嬉しいのだけれど。でもここは山間部だから雨と霧はほぼセットなのは仕方ないこと。それに、この頻繁な濃霧のおかげでこの辺りで作る野菜は甘味が増すらしいからやっぱり文句は言えない。


ちなみに霧が出ても発電はしてくれるので、雨だからと言ってすぐに電気が落ちるというわけではありません。

ただ発電量はやはり霧が出るとぐんと下がるから、今日みたいな日は節電を心がける。例えば日が暮れた後は何も充電しないとか、いない部屋はことごとく電気を消すとか。

あ、でもこの「居ない部屋の電気を消す」はもはやクセになっていて晴天の日でも通年通して無意識にしている気がする。


外出先や近所の知り合いの家で煌々と灯りがついた誰もいない部屋を見れば、電気を消したい衝動に駆られるし、「大丈夫だろうか、電気使い過ぎて落ちないだろうか」とまで自動的に思ってしまうから、もはや私のDNAに後書きされた生理現象と言ってもいいと思う。


ついでに書いておくと、この家の場合、一旦停電したら次に太陽が出て、バッテリーにある程度の電力が貯まるまでは復旧しない。普通の家みたいにブレーカーを上げればそれで元通りとはいかない。


復旧するのに必要なのは絶対的に太陽光で、こればかりは、「うす曇り」とか「明るい日差しを感じる優しい雨」など生半可なのではダメ。

だから、なるべく電気が落ちるところまでいかないように前述のような工夫が必要。


もちろん宿泊のお客様もそれは同様で、雨の日にお客様が泊まっている時は節電を心がけてもらう。

逆に雨が少なければ、シャワーを短めにしてもらったりと、何かと注文の多いゲストハウスなのかもしれない。

そういえば雨の日のお客様で一つ印象に残っていることがある。


1か月くらい前にお泊まりいただいたご夫婦で、ちょうどその日は今日みたいな雨と霧の日だった。前日まで数週間は雨が降っていなくて貯水量も4分の1を切っていたから、弱い小雨だったけれど久しぶりの雨が本当にありがたくて嬉しかったのを覚えている。


チェックインの後の建物のご案内がすんでから、お客様とアースシップを知った経緯などひとしきり話をした後、私は自室に入り、いつも通り、割と早めに寝てしまった。


数時間後、夜中にバラバラバラッという大きな音で目が覚めた。屋根のトタン部分に雨が落ちる音だ。けっこう力強い雨音からも本格的な大粒の雨が降っているのがうかがえる。

ああ、この音が何よりも聴きたい音だった!


今の私にとってこの音は世界で一番美しい旋律に聞こえる。などと半分寝ぼけながら、ぼんやり聞き入っていたその時、雨音にしてはなんとなく音階があるような、でも雨の音のようなポロンポロンという旋律がかすかに聞こえた気がした。


気のせいかな? 寝ている時に雨音が音楽に聴こえる現象はこの家に住み始めてから時々あることなので、多分私が寝ぼけているのだな、などと思ってそのまままた眠りに落ちた。

話は少し横道に逸れるけれど、このアースシップには円形の部屋が2つあって、壁の中には土を詰めた古タイヤがレンガ状に積み重ねてある。それらが蓄熱や断熱の役割を担うため一年を通して家の中の温度が一定で、冷暖房器具を何も使わずに暮らすことができる(本当に)。


このタイヤの凹凸を活かして漆喰で仕上げた有機的な丸い壁が反響してそう聴こえる気がするのかもしれないけれど、夜寝ている時に音楽のようなものが聴こえることが本当に時々ある。

それは雨が降っていなくても聞こえる音で、音というかどちらかというと合唱に近い。こんなことを書くと、この人大丈夫かしら? と思われる方もいるかもしれないけれどそんなことは一向に気にしないことにして先に進む。


合唱と書いたのは、本当に何かを歌っている声が重なっているように聴こえるから。

例えていうなら、そして一番近いと感じるのは『未知との遭遇』という映画のワンシーンに世界各地、異なる場所の大勢の人たちが同じメロディを口ずさむという場面があって、あの一定の音階を繰り返す合唱が印象的には一番近い。なぜなのかは全くわからないけれど本当に聴こえるので仕方ない。


星新一の小説のような、なんとも説明し難い起承転結も何もない話なのだけれど。


本題の話に戻る。

そのポロンポロンという何だか雨とは違う音が聞こえた気がする話を翌朝宿泊されたお客様にしたところ、「それはもしかして」と言いつつ、おもむろに部屋の中に戻ってA4の半分くらいのサイズの布にくるまったものを持ってこられた。布から出して見せてくれたのは小さな木の板の上に金属の櫛のようなものが2段重ねに取り付けてある楽器のようなもの。


それは、アフリカ大陸のどこかの国のとある地方で昔から伝わる楽器なのだそう。

私の記憶が曖昧で正確な国名は思い出せないけれど、何かとにかく暑い国という印象だった。


その小さな楽器は両手で持って両方の親指で鋼の櫛の先端を一つずつ爪弾くことで音が出るとてもシンプルな作りで、お客様が爪弾くと、なるほど昨夜の音に違いない。聞けば、この丸い部屋は音響がいいと来る前から思っていたそうで、宿泊の際にはぜひ音の響きを聞いてみたいとご持参され、昨夜試しに弾いてみたのだそう。

しかも、その曲は雨乞いの曲だったとのことで色々納得。


「よかった、幻聴ではなかった」と内心思いつつ、続けて話を聞くうちに、1曲弾いてくださることになった。2、3分くらいの短いその曲は、音楽でメロディがあるというよりも、むしろ自然の中の音のように感じられた。


例えば、軒先に雨粒がポタポタ滴る音、あるいは風が吹くと不思議なフワンとした音が響くウインドウベル。外は雨がまだ降っていて、まるで雨音と共演しているようにも感じられる。自分の中にどんどん入っていくような、静かな気持ちになる音色だった。


演奏が終わった後、今の曲は、「聖域」とか「聖なる空間」という意味の曲なのだと奥様が教えてくれた。この楽器の伝わる異国のその地域では曲ごとにいろんな意味が込められていて全てセレモニーのためのものなのだそう。


曲の演奏中、まるで球体の中にその場が全て収まっていてとても安心して静かな空間にいるように感じていたので、そんな話を聞いてなおさら不思議な気持ちになった。


今でも雨が降ると、あのポロンポロンという音を思いだす。

この文章を書き始めたちょうどそのタイミングで目の前、ガラス越しの濃霧の中を野うさぎが横切った。

プロフィール

アースシップMIMA 清水智子
https://www.earthshipmima.com/
日本で初めてアースシップを建設。現在は1日1組限定のプライベートゲストハウスとして運営している。